アイコン日本の音楽と舞踊の魅力を探る Vol.2

毎回さまざまな切り口で日本のこころを実演とレクチュアで綴る、花柳園喜輔を中心
としたシリーズ第二弾「みちゆきの美」。

そのレクチュアを数回に分けてここに再現します。

平成13年(2001年)12月7日(金) 紀尾井小ホールにて上演

レクチュア「道行考」より その1

プログラム道行組曲「恋模様四季道行(こいもようしきのみちゆき)」が幕を下ろし
てすぐに再び花柳園喜輔がマイクを片手に登場しました。横に今いっしょに踊った坂
東三津二郎氏も登場しています。


花柳園喜輔

坂東三津二郎


花柳園喜輔 ただいまは、五つの道行物(みちゆきもの)をご覧頂きました。改めて
ご紹介いたします。坂東三津二郎さんです(拍手)。三津二郎さんとは、男性だけの
舞踊集団「獅子の会」でもう三十年近いお付き合い、舞台をご一緒させていただいて
おります。私が小柄なので女形が多いのに対し、ご覧のようにやさ型の二枚目でい
らっしゃるので白塗りのいい役をいつもやってらっしゃいます(笑)。そこで、道行
物の立ち役の工夫をちょっとお聞かせください。

坂東三津二郎 はい。まあ、流儀によってそれぞれちがうとは思いますが、私の場
合、背が高くて肩幅が広いので、細く見せるということを自分なりに勉強しました。
これは七代目からお聞きしたことですが、待っている間もただ首を曲げているだけで
はいけないよと言われたんです。(立って演じてみせる)気持ちも何にも入らない、
色気もない。やはり腰から気持ちを入れてぐーっと下がるといいんだよ、と言われて
それを忠実に守っている次第です。

園喜輔 道行物では、立役(たちやく:男性)は脇にまわって、辛抱(じっとしてい
る)のことが多いですよね。

三津二郎 そうですね。

園喜輔 ですから、じーっといい形をしているのも結構疲れるものですね。

三津二郎 並大抵じゃございません(笑)。

園喜輔 やはり、道行物では女性のほうが能動的で、積極的ですね。時には死をも厭
わないという役柄が多いように思います。まあ、曲ができました江戸時代、封建社会
の中でのひとつの抵抗の形かなと思いますし、見ているお客様たちも自分たちの代弁
者、自分たちが密かに憧れていることを舞台でやっていることに拍手喝采したのでは
ないかと思います。

道行というのは、話せば長くなりますし、今日ご覧の皆様にはよくご存知の方もい
らっしゃるとは存じますが、雅楽の道行から始まりまして文学でも道行というのはご
ざいます。プログラムにも少し書いてございます。それから、能や狂言でも、狂言で
は一巡する、どこからどこまで行く過程を道行というと先生から聞いております。

さて、今見ていただいた「恋模様四季道行」では、まず清元の「お染久松」(本名題
:道行浮塒?(みちゆきうきねのともどり))というのを演じました。大変若いカッ
プルの道行です。ちょっとスライドをご覧いただきましょう。


「お染久松」


三津二郎 「お染久松」の解説をさせていただきます。日本橋の瓦町にある油屋の一
人娘お染と丁稚久松、この久松には許嫁(いいなずけ)のお光というのがいるんです
けど、お染と恋仲になってしまい、駆け落ちをするというところです。鶴屋南北の作
品でございますが、向島三囲(みめぐり)神社近くを心中に向かう二人の様を描いた
ものです。

園喜輔 我々も小さいころやったのですが、さすがにセピア色に写真がなっているの
で(笑)、息子たちの世代の写真を使っております。

三津二郎 この後、猿回しが出てくる場合もありますね。

園喜輔 次にご覧いただいたのは、「かさね」(清元の曲、本名題:色彩間苅豆(い
ろもようちょっとかりまめ))というちょっと凄惨で怖い怪談の舞踊でした。これも
スライドでご覧いただきましょう。


「かさね」1


三津二郎 同じく鶴屋南北の作品ですが、与右衛門と累(かさね)の道行を舞踊にし
たものでございます。一緒に死のうとする二人の元にドクロが流れてきます。このド
クロが、累の義理の親である助(すけ)のものと分かり、助を殺したのが与右衛門で
あって、また恨みが乗り移り、累の顔にも無残な痣(あざ)ができたり、足にも傷を
負ったりします。

園喜輔 そこの場面のスライドを見てもらいましょう。


「かさね」2


園喜輔 これが幕切れのところですが、このように痣ができてしまいます。結局、自
分の親を殺した男と駆け落ちしてしまう、因果は巡るという作品ですね。次は「葛の
葉」という義太夫の曲を使いました。これは登場人物一人です。


「葛の葉」


園喜輔 これは竹田出雲作の「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」
という作品のなかで、安倍保名(あべのやすな)と夫婦になった信田(しのだ)の狐
が、実はこの狐は以前保名に助けられた恩返しに夫婦となり子まで設けるのですが、
本物の葛の葉姫(くずのはひめ)が現れたので泣く泣く信田の森へ帰ります。で、帰
るところがこれでございます。私は、まだ本衣裳で踊ったことが無いので、この写真
は二世五條珠美先生のものを拝借しました。大変に古風な格好をして踊るんですね。
ちなみに安倍保名というのは、今ブームになっております安倍晴明(せいめい)の父
親だと言われております。

そして、次は清元の「新口村(にのくちむら)」をご覧いただきました。


「新口村」


三津二郎 大阪新町の廓(くるわ)で亀屋忠兵衛(ちゅうべい)は恋人の梅川を請け
出すために三百両の公金に手を出しまして追われる身となってしまいます。二人は、
人目を忍んで忠兵衛の親である孫右衛門の住む新口村までやってまいります。

園喜輔 これでお分かりのように、お揃いの着物で、別に心中するからといって誂え
たわけではなく、ここら辺が歌舞伎の嘘と美の追求でしょうか。お揃いの衣裳、それ
も黒というのは多いじゃないでしょうか。

三津二郎 多いですね。「蝶の道行」なんかもそうですね。

園喜輔 大変に情緒的なものですね。これは冬の場面ですが、春立ち返るとして最後
に「蝶の道行」を義太夫でご覧いただきました。


「蝶の道行」1


園喜輔 これは「傾城倭荘子(けいせいやまとそうし)」という作品の最後の場面で
すが、親同士仲が悪い家の息子と娘が相思相愛になってしまった、まあ要するにロミ
オとジュリエットみたいな状況です。それで、お家騒動に巻き込まれてしまって、お
主の代わりに、身代わりになって死んでしまうんです。その魂が蝶になって舞い遊ぶ
様がクライマックスになっています。そしてまた、地獄の責めになって、そう、蝶の
柄の着物を見せてください。


「蝶の道行」2


園喜輔 最後の方は、こういう蝶になって、先ほどもちょっとひらひらと踊って見せ
ましたが、そこら辺が蝶のくだりとなります。そういうような「蝶の道行」、これは
とてもファンタジーな踊りでございます。(三津二郎氏に)何度もやられているので
はありませんか?

三津二郎 ええ、何回かやらせていただいています。

園喜輔 このように衣裳をつけて普通はやるものを、今日は素踊りで実験的にやらせ
ていただきました。三津二郎さん、道行物の魅力は何だと思いますか?

三津二郎 そうですね。一言では言い表せないことですが・・。

園喜輔 僕などは、とても日本的だと思うんです。まず、四季というものが出てきま
す。そこの風光明媚みたいな所を唄って、それに対して登場人物が心根を踊ったりす
る。あまり、外国では道行物っていうのは無いらしいんですね。

三津二郎 そうですね。

園喜輔 後で、朝倉先生にそこら辺を話していただくんですが。なんかそんな気がい
たします。それでは、三津二郎さんには、次の支度にかかってもらいます。後ほどま
た、よろしくお願い致します。

拍手とともに三津二郎退場。

○次回は、宮薗節についてのお話です。

「物狂い考」その1 「物狂い考」その2
「物狂い考」その3 「物狂い考」その4
「道行きの美」はじめに