リストマーク 日本の音楽と舞踊の魅力を探る VOL.1

ものぐるいの美−狂うほどの愛、知っていますか− より
レクチュア「物狂考」その4

 平成12年12月1日(金)紀尾井小ホールで行われた、オフイス拓主催、花柳園喜輔企画・構成の『ものぐるいの美』公演から、レクチュア「物狂考」をホームページで再現します。会場の楽しい雰囲気をネット上でもお楽しみください。(5回連続で掲載の予定です)

●前回までの概要

レクチュアでの
如月青子講師
如月青子講師により、日本舞踊における「物狂い」の起源についての解説があり、今回の企画では、その物狂いの舞踊を<素踊り(すおどり)形式>で見てもらう形を採っていることが説明されました。
 実際に上演される『保名(やすな)』と『賤機帯(しずはたおび)』の舞台をスライドで見せながら、<素踊り形式>でない時の大道具や衣裳について解説がありました。『保名』は恋人を失った狂乱、『賤機帯』は子供と別れた狂乱、と両作品の内容の違いについても話がありました。
 次に、清元と長唄の演奏陣が登場。それぞれの聞き所を聴き比べたり、今は演奏されなくなっている部分などを特別に演奏してもらったりしました。



11.『保名』の小道具
園喜輔 ここで、『保名』と『賤機帯』で使われる小道具を見ていただこうと思います。後見の高橋敏広さんにも登場していただきます。

拍手とともに後見の高橋が登場。


差し金の蝶を扱う
高橋(左)、園喜輔(中)、如月講師(右)

園喜輔 まず、衣裳付きの場合、『保名』で出て参ります<差し金の蝶>を見せてください。

高橋 『保名』の蝶々は、基本的に花道で振ります。菜種に戯れるのであまり高くは飛びません。ただ、振りによっては高く飛びますのでそこの所をご覧ください。

高橋、扱って見せる。

園喜輔 これが簡単に見えてむずかしいんです。あまり上手でない方の蝶々は、蝶々にみえないんですね(会場笑)。暴れているだけで。この先の方は、鯨のヒゲですね。

高橋 はい。

園喜輔 それから、<小袖>ですね。先程は素踊りでしたので、渋めの物を使いましたが、よく使うのは紅い小袖ですよね。(小袖を見せる)

如月 花柳流では、片袖を左肩にかけるというか、置いて出てきて通す振りですね。流儀によっては、丸ごと着たりいろいろですね。

園喜輔 先程のスライドでは、黒とか、まあ着物の色に合わせて使います。また、<蝶の扇子>、これも好みです。

12.『賤機帯』の小道具
園喜輔 『賤機帯』では、<狂い笹>が一番大事な物でございます。で、これは、<生の笹>で、よく能の方ではこれを使うそうですが、日本舞踊では<作り物の笹>を使います。


狂い笹の比較

園喜輔 次に<扇>。これも好みでございますが、今日は素踊りですので銀地に桜の花びらが散っている物を使っております。(別の扇を見せて)これは本衣裳の時のですか、少し派手やかです。それから、これは舟長(ふなおさ)の<天地金>(てんちきん:扇の紙の部分の上と下に金色の箔が付いている)です。

掬い網を使って踊る園喜輔


園喜輔 また、狂女が使うものとしては、<掬い網(すくいあみ)>があります。これは、先程も話に出てきました能の『桜川』で、これを担いで出てくるのですが、これで花びらを掬って、子供の供養を願うとか、子供に会いたいなあと想いながら舞うくだりがあります。



鞨鼓をつけての踊りの場面



園喜輔 そして、<鞨鼓(かっこ)>。物狂い芸で鞨鼓を打ってみせるという場面です。

如月 先程言い忘れましたが、<狂い笹>というのは、特殊技能者の持つ物で、色々なところで交通の許可証にもなっていたそうです。それは、恐れられもされ、尊敬もされたとうかがっております。

園喜輔 それから、舟長の使う<竹の子笠>。竹の子の皮を重ねて作ったような形をしています。

12.『保名』の鉢巻き
園喜輔 これは、『保名』の時の鉢巻きですが、今日は素踊りで付けませんでしたが、これを高橋さん説明してください。

高橋 本来、お芝居の方では“小ぎれ”というところから来ます。衣裳でも、小道具でもありません。“小ぎれ”という部署から持ってきます。ただ、舞踊会では、今は“床山”さんが準備してくれます。で、これをなぜ<病い鉢巻き>というのかと言いますと、左に結びます。右に結ぶと<力結び>といいます。花川戸の助六などが代表です。


病い鉢巻きの
説明をする高橋

高橋 なぜ、左に結ぶのかというと、病気になると心臓に負担がかかりますね。心臓はどちらにありますか?左ですね。そうすると、左を下にして寝ると心臓に負担をかけます。ところが枕があると鉢巻きの結びがぶつかって寝られません。必然的に寝返りをうち、心臓に負担をかけないようになっているわけです。自然の法則に則って、昔の人はよく考えて<病い鉢巻き>をこしらえたと思いますね。(注)
園喜輔 ありがとうございました。

(注)高橋氏の説とは異なる説もあります。


(以下、次号に続く)

次回は、「質問コーナー」と総集編です。お楽しみに。 

●レクチャーバックナンバー (クリックすると、以前のレクチャーを見られます。)
「物狂い考」その1 「物狂い考」その2 「物狂い考」その3