リストマーク 日本の音楽と舞踊の魅力を探る VOL.1

ものぐるいの美−狂うほどの愛、知っていますか− より
レクチュア「物狂考」その3

 平成12年12月1日(金)紀尾井小ホールで行われた、オフイス拓主催、花柳園喜輔企画・構成の『ものぐるいの美』公演から、レクチュア「物狂考」をホームページで再現します。会場の楽しい雰囲気をネット上でもお楽しみください。(5回連続で掲載の予定です)

●前回その1と2の概要

レクチュアでの
如月青子講師
如月青子講師により、日本舞踊における「物狂い」の起源についての解説があり、今回の企画では、その物狂いの舞踊を<素踊り(すおどり)形式>で見てもらう形を採っていることが説明されました。
 実際に上演される『保名(やすな)』と『賤機帯(しずはたおび)』の舞台をスライドで見せながら、<素踊り形式>でない時の大道具や衣裳について解説がありました。『保名』は恋人を失った狂乱、『賤機帯』は子供と別れた狂乱、と両作品の内容の違いについても話がありました。

8.演奏家登場
如月 :それでは、ここで演奏家の皆様にご登場いただきましょう。そして、日頃はお聞きになれない曲の説明や部分演奏をしていただきたいと存じます。この部分演奏は特に私がお願いしたかったことです。どうぞ、いらっしゃってください。

拍手とともに清元と長唄の演奏家、そして園喜輔が登場。

右より清元美治郎、清元美寿太夫、如月講師、
一番左が園喜輔
園喜輔 どうもありがとうございました。皆様にご紹介致します。向かって右からタテ三味線の清元美治郎(よしじろう)さん、タテ浄瑠璃(じょうるり)の清元美寿太夫(よしずだゆう)さんでいらっしゃいます。タテ(同じ楽器や歌の担当でリーダーをつとめる人)と申しましても、今日は一挺一枚(いずれのパートも一人で演奏してもらう)で無理を願っておりますが(笑)。

左より日吉小間蔵、稀音家祐介、園喜輔、
一番右が如月講師
園喜輔 続いて、向かって左から長唄唄方日吉小間蔵(ひよしこまぞう)さん、三味線方稀音家祐介(きねやゆうすけ)さんです。後ほど『賤機帯』でご一緒させていただきます。

9.清元『保名』の演奏について
如月  今日は、浄瑠璃をお一人、三味線をお一人、これを一挺一枚と申しますが、大変変わった形で演奏していただきました。そういう点、美寿太夫さんどんな風にお感じになりましたでしょうか?
美寿太夫  そうですね。清元は基本的に一丁一枚というケースは少ないですね。ただ、歌舞伎などでは、浄瑠璃四人、三味線三人の三丁四枚でだいたい演奏しておりますので、今日のような機会はめったにないですね。ですから、いろんな意味で非常に緊張しました(笑)。
如月  その代わり、いい演奏を聴かせていただけました。(場内からも拍手)
園喜輔  お二人とも今が芸の旬、盛りの方でいらっしゃるので、僕の強い要望で一挺一枚でやっていただいたんです。
如月  美治郎さんはいかがでしたか?
美治郎  あまり一人ではやったことがないですし・・・。隣に三味線の人がおりませんので。失敗が多いんです、僕(笑)。よく失敗するんで、失敗をするといけないなあと思って、そういう緊張がものすごくありました。
如月  今日はいい機会ですので、六代目以来ここがとりわけいいところだという部分がありましたら、演奏していただけますか?
美寿太夫  この『保名』の場合、恋心だとか、好きな人の事を思い出しながらという状況を出すには、非常に経験が乏しいもんですから・・(場内爆笑)。私なりに役者さんや先輩たちに教えられた事を自分なりに解釈して語っておりますけれど、先程の歌詞では、<♪主は忘れて ござんしょう>のところが情感といいいますか、ムードが出ていると思います。
如月  では、ぜひそこをもう一度お願いいたします。

       清元の演奏
美寿太夫、美治郎の三味線で語る。

M♪主は忘れて ござんしょう
     しかも去年の桜時
       植えて初日の初会から



場内、感動の拍手。
如月  こういう所は、浄瑠璃の方も、お客様も、踊り手も自己陶酔の良さがかみ合うところかも知れませんね。それとは別に、美治郎さんにお願いしていることがございました。実は、田中良先生が昭和42年に国立劇場公演で舞踊史の流れを監修なさったことがありました。その中で、私に「小袖物狂い」の形に戻してみたいが、曲が見つからないとおっしゃってたのです。昭和42年にできなかった事が今できるとは思わないのですが、私、美治郎さんに何とか調べてくださいとお願いしていたのです。
 と申しますのは、時々歌舞伎公演で古風な形にした方がいいというので奴を出しますんですが、奴が出る所も引っ込む所も取って付けたようでちっとも効果がございません。奴を出すなりの演奏がないと駄目だと思うんですけど。
美治郎  いろいろ調べてみたのですが、最初に<前弾き>(前奏)があった。それと、最後のほう、二上がりの<♪露ばかり>の部分に節ばかりでなく、一緒に弾いていたという事しかまだ分かりません。
如月  でもこういうことは最近なさったことはありませんですよね。
美治郎  はい。前弾きは一度も演奏した事ありません。
如月  では、今日のお客様にどういうものかお聞かせください。

美治郎、M<前弾き>を弾いてみせる。

続いて二上がりの最後のところを美寿太夫の浄瑠璃と美治郎の三味線で演奏する。

   M♪その面影に露ばかり

場内珍しい演奏に拍手

如月 ありがとうございました。
美寿太夫 古風ですよね。
園喜輔 格調がありますね。
如月 ええ、これだったら、バックにお宮や鳥居があって、奴が出てきてもいいような気がしますね。


10.長唄『賤機帯』について
如月  では、『賤機帯(しずはたおび)』の話題に移ります。観客の皆様には、これから見ていただくわけですが、素踊りということで、園喜輔さん、どんな工夫があるのでしょうか?
園喜輔  はい。先程スライドでもご覧いただいた松羽目・衣裳付きの舞台では、舟長(ふなおさ)がまずお幕から登場します。<乞い合い>というお囃子で、「これはこの辺りに住む渡し守にて候」と名乗りがあります。そして、「舟を留めてかの物狂いを待たばやと存じ候」というと、お囃子の<カケリ>、ヒヤヒー、ポ、ポ、スポポポとなり、狂女が出てまいります。今回は、素踊りということなので、<置き>という唄だけで隅田川沿いの春の状況を表現しておりますところを聞かせまして、狂女が先に出て参ります。
如月  そうですか。
園喜輔  それから、舟長が後から出てくるという演出になっております。
如月 はい。今回はお囃子が入らないということなので、<カケリ>がどういうものなのか、テープでお聞きただきましょう。
M お囃子による<カケリ>演奏テープ
園喜輔  これも、お能から来た手付けをそのまま利用していると思います。
如月  これを長唄の三味線に写して弾いていただきたいと思います。
祐介  あの、特に演奏会などで<カケリ>の手というのがあるわけではないのですが、ただ今お聞きいただいたお囃子の手をまねる、「もどき」と言いますが、それを弾いてみます。
M 長唄三味線による<カケリ>の演奏
如月  ありがとうございました。では、清元さんにも<カケリ>を弾いていただけますか。その違いを聞き比べていただければと存じます。
M 清元三味線による<カケリ>の演奏
如月  (拍手)ありがとうございました。同じ三味線でもこのように趣きが微妙に違う。だから日本の芸能は素晴らしいですね。長唄は、お囃子の<カケリ>にのって<置き>を唄われるわけですが、本日はお囃子がないので、カラオケというかテープにあわせてちょっとご披露いただけますか?本邦初演かも知れませんが(笑)。
日吉  普段ですと、お囃子さんの行き合いとこちらの行き合いがあってできあがるのですが、今日は影も形もないので、テープがどうなっているのかも分からないのでどうなりますか、やってみましょう。
M テープの<カケリ>に合わせて日吉小間蔵唄う
     M♪春も来る 空も霞の滝の糸
                乱れて名をや流すらん
園喜輔  この唄で狂女が出て参ります。長唄『賤機帯』は、先行の一中節の影響を受けているようですが、祐介さんどこらへんがそうなんでしょうか?
祐介  私たちが聞いているのは、二カ所ほどです。最初の「♪物に狂うは」のくだりと最後の鞨鼓のくだりが影響が強いとうかがっています。
園喜輔  では、そこのくだりを演奏していただけますか?
     長唄の演奏


  M 長唄・三味線演奏

     ♪曲もなや 物に狂うは我ばかりかは
        鐘に桜の物狂い 嵐に波の物狂い
           菜種に蝶の物狂い
如月  ありがとうございました。
園喜輔  この後、実際の舞台は見ていただきます。
如月  演奏の清元、長唄のみな様ありがとうございました。

拍手の中、清元と長唄の演奏家退場。
(以下、次号に続く)

次回は、「保名」と「賤機帯」の小道具のお話が展開します。お楽しみに。
 

●レクチャーバックナンバー (クリックすると、以前のレクチャーを見られます。)

 「物狂い考」その1   「物狂い考」その2