アイコン日本の音楽と舞踊の魅力を探る Vol.23

      ゆうらくの美〜ファイナルステージは芸に遊ぶ〜
     

レクチュア「ゆうらくの美考」その2

平成22年12月3日(金)
紀尾井小ホール

「ゆうらく考」

聞き手 花柳園喜輔

ゲスト 杉 昌郎(集団日本の音主宰)
    藤舎呂船(囃子演奏家)

左から 藤舎呂船、杉 昌郎、花柳園喜輔
中央 花柳園喜輔、右 藤舎呂船
藤舎  それにひきかえて、割合低いピッチの音が小鼓と言ってます。これも室町ぐらいから鼓があったんですけど、鎖国によってすごく改良された楽器です。これの特徴はですね、まず左手が締めたり緩めたりする。強く締めると高いピッチの音が出ます。緩めると低いピッチの音が出ます。それを右手で打ちます。ちょっと高いピッチの音を出します。(打つ)今度は低い音を出してください。(打つ)そうですね。世界中の打楽器の中で片手でピッチを上げて下げてという打楽器は、この小鼓ぐらいだと言われています。これはやっぱり、鎖国だったせいで日本独自の文化とそれから工夫がすごく出てる一つだと思います。それと普通の打楽器はですね、打ち下ろす、普通の打楽器は全部打ち下ろしで打ちますが、これは下から打ち上げて打つんですね。大変、これ難しいんですが、ポンと打ってください。(打つ)そうですね。これも独特ですね。これもやはり、こういうふうに工夫して様式的にですね、成り立つようにできてる小鼓です。
    これで打楽器が三つ終わりました。もう一つ、笛がございます。これを含めて囃し方と言っておりますが、さっき申しましたように能を基本にしてる歌舞伎ですから、能で使ってる能管という笛を使っております。これはピッチはですね、平均律ではなくてちょっとオクターブ間隔が違うんですが、こんな風な旋律がでます。(吹く)そうですね。高いピッチの音が出ますね。それから、歌舞伎音楽では笛の場合、篠笛、竹笛とも申しますが、このように平均律に近い旋律系の笛も使います。ちょっと吹いてもらいます(吹く)これは、長唄の越後獅子という中からの旋律系を取ってるわけですね、これが竹笛です。これ、ピッチがですね、長さがフルートの場合なんかは、一つのピッチでいろんな調を吹くんですね。運指方法を変えて吹くんですが、これは長さをたくさん持ってましてですね、僕たちは三味線を何本何本というふうに言ってるんですけど、高くなれば短くした笛で運指方法は同じ運指方法、それで低くなれば低くなったで長い笛を使って運指は同じと。それで旋律系を吹いてます。四パート揃ってこれを四拍子といいます。
    それで次にいっていいですか。
    さっきやりました、「猩々」の中で「乱れ」という曲がありましたですね。お酒を飲んだ猩々がですね、たいへん楽しく舞ってる舞なんですね。特殊な舞なんです。「乱れ」といいます。これは、テンポがですね、インテンポ、同じテンポで打ったらこんな風になりますが、ちょっとインテンポでやてくれますか。インテンポでやります。はい。(打つ)これを、インテンポじゃなくお酒を飲んでる時に酔っ払ってしまってテンポが揺れます。
 千鳥足風ですね。
藤舎  千鳥足でやります。ちょっと千鳥足でお願いします。(打つ)はい。ありがとうございました。それでですね、ぼくたちの歌舞伎音楽はですね、この四拍子の他にですね、大太鼓という楽器を使ってですね、いろんな表現を、いろんな場面をやります。この次に園喜輔先生が舞われる「北州」で吉原の風景がありますが、その吉原に入ってくるお客様がですね、「お客様いらっしゃいませ」って言うとドン(打つ)「いらっしゃいませ」。はい、ドン(打つ)こんな風に太鼓をたたいたらしいです。それから、その吉原の風景を出すときには通り神楽と言って、今のを変形した形式的、様式的な通り神楽を大太鼓で打っております。(打つ)はい。江戸の世界に行ったようで、とってもいいですね。
 はい。いかにも吉原の。
藤舎  それでですね、今度は夜になりまして皆がお酒を飲みまして踊ったり舞ったりします。そのとき「さわぎ」という音楽が。
 お座敷でうわーっとさんざめいてるそういう雰囲気です。
藤舎  それでは、騒ぎましょう。騒いでください。どうぞ。通り神楽も入ります。(打つ)はい。
 はい。どうも。はい。さわぎでした。
藤舎  そしたら、ちょっとこれ、同じ大太鼓で表現をするんですが、ちょっと違った・・・
 やってみますか?
藤舎  ちょっとやってみましょうか。
 やってみてください。
藤舎  はい。
 大太鼓のいろんな表情が出せませす。で、あの同じ太鼓を使って、何やる?
花柳  大どろをやりましょうか。
 大どろ。
花柳  はい。
 どろ。
花柳  どろ。はい。
 じゃあね、幽霊です。幽霊が登場するときには、絶対この大太鼓が大活躍なんですよ。で、これによって幽霊の表現が非常にうまく生かされる。そういう薄どろといいます。まず、不気味なところからいこうよ。薄どろからさ。(打つ)これは火の玉がめらめらめらと燃えて、墓場かなんかで、「なんだか薄気味の悪い夜だねえ」なんて言いながらあれするというようなシーンですね。はい。そうしてそのうちいよいよ。やってよ。(花柳立ち、動く)こういう、はい。これは重ねの連理引きです。はい。ドロン(決まる)ドロンバタン。
花柳  というふうに踊りは舞うということですね。
 そうですね。
花柳  それとちょっと逆戻りするんですが、これだけ僕言いたかったんですが。
 なんでしょう。
花柳  吉原の。
 はい。幽霊やめて忘れてください。
花柳  忘れてください。
花柳  おしとやかに。
 そうですね。道中しましょう。
藤舎  何の道中っていうんでしたっけ。花魁道中。
 はい、そうですね。お客様に呼ばれてお座敷へ行くまでの間は華やかに、デモンストレーションですよ、一種の。かむろから何からぞろぞろ引き連れて。位の高い花魁ほど大勢くっつくんだよね。やりてばばあもつくんだよ。
藤舎  そうですか。
 じゃあ、華やかにいきます。その道中。助六のお芝居なんかご覧ください。揚巻が登場してきましてね、花道行って、歌右衛門ねえちゃんなんかががんばるところですよ。それいきましょう。
藤舎  はい。
 はい。どうぞ。道中です。(打つ。花柳動く)これをわたり拍子といいます。これが聞えてきますとまさに廓のね情緒ですよね。(花柳決まって止まる)はい。ご立派でした。揚巻か白玉かどっちだか知らないけど。
花柳  えりまきぐらい。
 えりまきぐらい。はい、わかりました。つまり花魁が高い下駄を履いてうろうろする時にいたします。ということです。
花柳  まだまだ聞きたいんですけどね、ほんとに長くなってしまいます。一つだけ。鼓は湿らすというか、どちっかというと湿気があった方がいい。
藤舎  はい。
花柳  それから、あちらは、おおかわとか太鼓は乾いてるほうがいい。
 そうしてるほうがいいですね。
花柳  やっぱり日本の四季に根ざして
 そうなんですよ。
花柳  外国でやる時は大変でしょう?
 大変なんですってね。
花柳  それから、呂船さんは小鼓の名手でらっしゃいますけど、我々が習おうと思うと、どういうふうな特性が、この人によっては鼓が合うとか太鼓が合うとか、そういうのはどうなんでしょう。
藤舎  そうですね。
 稽古してるうちにわかるもんなんですか。
藤舎  まだしゃべっていいですか?
 どうぞどうぞ。あんまり長くなくね。
藤舎  日本人の手っていうのはやっぱりヨーロッパの人より短くてですね、ちょうど小鼓を打つ場合にですね、スイートスポットって、一番いいところにぽんと当たると同じ力を加えてもよくいい音がするんですね。だからその、手の仕組みなんかで楽器を選択したり。大鼓(おおかわ)と小鼓(こつづみ)は夫婦関係だって言われてるんですね。それで、強く、先に出てリードするのがおおかわです。さっき打ってた千穂さんはいつもリードしてくれてるんですね。で、僕が鼓を打ってそれを受けて、という。
 わかりました。そういう関係にあるというわけですね。
藤舎  ええ。強い方はおおかわをやればいいし。また、好き好きで選んでも良いです。
花柳  私が修行してたときは鼓だったんです。
藤舎  そうなんですか。
 鼓って感じだね。
藤舎  そうですね。しなやかでね。
 間違ってもおおかわじゃないよ。
藤舎  ウェットな方でございまして、ドライはだめなんですよ。ありがとうございました。
 どうもありがとうございました。
藤舎  ありがとうございました。
花柳  これからはいよいよ杉昌郎先生に「ゆうらくの美」日本の芸能の特性などを含めて楽しいお話を聞かせていただきたいと思います。私どもは次の幕の支度があるのでこれで失礼いたしますけど、最後までごゆっくりとお楽しみください。ありがとうございます。

・・・花柳園喜輔と藤舎呂船退場


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