アイコン日本の音楽と舞踊の魅力を探る Vol.21

        もじりの美 〜伝統芸能は凄腕アレンジャーの宝庫!
     

レクチュア「もじりの美考」その3

平成二一年一二月四日(金)
紀尾井小ホール

「もじり考」
聞き手 花柳 園喜輔
ゲスト 田口 和夫(文教大学名誉教授、能・狂言研究家)
鶴澤津賀寿(義太夫三味線演奏家)

左から 花柳 園喜輔、 田口 和夫、鶴澤津賀寿
花柳 ここで、毎回この会ではいろんな種類の音曲をご紹介いたしまして、それで私が躍らせていただくという企画でございます。今まで、長唄を始めいろんな浄瑠璃もいたしました。最後、真打ちでございますけど、浄瑠璃の父とも言うべき義太夫を今回ご紹介したいと思います。
それでは、義太夫の、今日は三味線の方に出ていただきまして、後ほど演奏していただきますが、鶴澤津賀寿さん。よろしくお願いいたします。

鶴澤津賀寿、登場。

花柳 義太夫、太棹といいますですね。先ほど聞いていただきました長唄は、細竿という比較的棹の部分が細いんですが、こちらは大変に太いものでございますですね。それからどうも、長唄に比べれば、大きいような厚いような感じがいたしますんですけども、どうでしょうか。
鶴澤 そうですね。合奏じゃなく一人で弾くのが基本なので、大きな音が出るようにということだと思います。この胴という部分が共鳴する部分が大きいというのが、さきほどの長唄の三味線よりだいぶここの大きさが違うと思います。サイズは、長さやなんかはそんなに変わらないんですけれども。
花柳 それから、その皮は何でできてるんですか。
鶴澤 皮は今日のはこれは猫で、犬か猫かどちらかなんですけれども。命をいただいて一緒に音を鳴らすということで。
花柳 そして、この竿は何の材質ですか。
鶴澤 紅(こう)木(き)ですね。
花柳 紅木。硬い木ですよね。それからそこに駒っていうんですか。駒も長唄から比べると非常に高くて。
鶴澤 そうですね。高さが。ここでこう撥を弾くので、弾く部分の高さが一番高いところ、手がすっぽり入ってしまうところの高さで弾いているので、一番三味線の中ではハードな楽器だと思いますね。
花柳 細かいことですけど、上の方に上駒っていうんですか、そちらは長唄のと比べると全然材質が違うように思うんですけれど。
鶴澤 これは孟宗(もうそう)筍(だけ)という竹だそうです。
花柳 むこうは金のような、金属のようなものになりますよね。駒なんかもやはり非常に重いものなんですか。
鶴澤 駒は、出しますと中に裏側に鉛が二つ埋め込んでありまして、この鉛の重さで、何丁もたくさん駒を持って歩いてまして、語られる方のキーの高さとか、そのときの会場の湿度とか、そういうようなことでその重さっていうのがが合うような駒があって、それを楽屋で調節していろんな重さのをかけるということになっています。
花柳 私は義太夫って言いますと、まず、有吉佐和子さんが書いてますけれど、「一の糸」っていう小説がありますね。その「一の糸」一番上の糸の音ですか。「デン」という、ちょっと弾いてみてもらえますか。
鶴澤 そうですね、これが(弾く)
花柳 この一の糸に魅せられた女の人の話かと思います。それから、文章から文章をつなぐ「・・・」みたいなところによく二を「トーントーン」と弾くような。
鶴澤 空二(からに)って言いましてなんか(弾く)静寂の中にポイントで何かが(弾く)これだけを時々弾くという手法もあるんですけど。
花柳 こういう一だけの「トーン」という単純な、単純というか一つのその音だけに、やはり三味線引きの人の何かがすごく出るように思うんですね。
鶴澤 そうですね。
花柳 ですから、割り方こうゆっくり、単一に弾いてるんですけど、その音そのものが非常に悲しかったり、怒りが出てたり、なんかたたくみたいな。今度の猩々の中にもありますよね。ああいうものは非常に力がいるんじゃないでしょうか。
鶴澤 そうですね。腹力(ふくりき)という、おなかの力をずっと持ってないときれいな音を出すときは余計のこと、と言われますけれど、おなか力をずっと浄瑠璃が始まったらずっと持ちっぱなしでこう弾かなくちゃならないですね。それでその表現によった音といいますか、あとの猩々でもちょっとお姫様が悲しくなってきてしまったときには、悲しくなったっていう音を出さなければいけないし、怒りに打ち震えているときは激しくとか、ちょっと怨念がこもってきたらまず三味線でその音を作って、語る方がそういうふうな表現をしやすくして、なるべく努力して弾くっていう、そういう楽器なんですね。
花柳 それから、普通は文楽でもそうですけど、芝居のところが多いんですけど、いわゆる道行きとか舞踊の部分の地を弾く場合もございますでしょう。そのときに非常に前弾きがはでやかな特徴だった三味線ってのがありますよね。あれなんかちょっとみなさんにお聞かせいただけたら。
鶴澤 そうですね。ちなみに景時物の弾き出しを(弾く)
花柳 というような、これがなんか非常に何か情景描写というかそういうのがしっかりできたうえで踊りが出やすいなというような感じがございます。
  今、文楽と申しましたけれど、女流の義太夫さんは文楽ではお出にならないで、もっぱら素浄瑠璃っていうんですか。
鶴澤 そうですね。素浄瑠璃といって、私たちだけが演奏、演奏だけをする形が基本で、今日のように舞踊の地をさせていただくこともありますけども。
花柳 でもやはりその、一つの音に情を乗せたり、感情を乗せるってのは大変なことだと思いますね。今回は、比較的新作をやっていただくんですけれども、猩々は新しい曲ですけど、そういう新しいものの工夫とかはどうですか。
鶴澤 古典で永いこと時代で伝えられてきた曲は、やはりそれだけの教えみたいなことも伝わってきておりますので、お稽古してただいて、いろんなことを教えていただいて、ここは泣くからこういうふうに弾いた方がいいとか、そういうこと、具体的な方法を稽古で教わるわけですが、新作だとやはりそういう具体的なことも教えてくださる方がそうそういなくって、松之輔お師匠さんは私が全く存じ上げないお師匠さんなので、師匠とか今回も由井先生がいろいろ、松之輔師匠がこうおっしゃっていたよ、とかいうことを教えてくださったんですけど、そういうことを手がかりにどう弾いたらいいのかっていうことを自分で考えて弾かないといけないんで、余計難しいかもしれないと思います。
花柳 初めてご一緒させていただくんですけども、とても楽しみなのと、とてもドキドキな部分があるんです。それで、津賀寿さんはよく竹本駒之助先生と相三味線っていうんですか、よくご一緒に演奏なさってますね。駒之助先生は人間国宝でいらっしゃるし、かなり厳しい方でいらっしゃるかと思うんですけど。
鶴澤 最初、入門して二十五、六年になるんですが、その頃はこんなに偉いお師匠さんじゃなかったわけですけど、私くらいの年だったのかな、師匠がね。そんな頃からずっと一緒にいて、ここ十四、五年弾かしていただいてるので、そういう意味ですごく厳しいですけど慣れてるんでわがままも言い放題で、それでも許してくれるところがあって、やっぱり一緒にいて通じるみたいなことをなるべく普段から心がけるというか、師匠がどう考えてるのかというのを普段からわかるようにしていると、演奏中でも「ああ、ちょっとこうかな」っていろいろ感じ取ることができるというか。そして、一緒にやらしていただくというのが意味があると。
花柳 舞台は一回一回生ものですから、そのときにやっぱり違いますけど、それをちゃんと呼吸があってやってらっしゃるんで、私たちも踊らせていただいて一回毎に新鮮な気分でやらせていただいております。
  語りの方はまた奥が深いものですし、改めて次回にでもお話を、いろんなことを聞いてみたいと思うんですけども、今日は三味線の方、お聞かせいただきました。
  まとめまして、では<もじり>ということで、みなさにまとめのお話をしていただいてこのコーナーを終わらせたいと思っておりますけど。
田口 「猩々」、今度、拝見するのは、猩々の部分が特に<もじり>ということになりますが、そういうふうな過去の優れたものをどのように受け止めて新しいものになっているのか、それを確認しながら拝見するということで、また自分の中にも新しいものが作っていけるのではないか、観客としてはそう思っております。
花柳 今回は私が振付けましたけど、そういう先行の「猩々」の<乱れ>の足だとかいうようなことは少しずつ取り入れたんですが、単なるパクリにならないように更に工夫を重ねて上演したいと思っておりますが、まずは今日は初演でございます。ほんとにこれからドキドキでございますけども一生懸命やらさせていただきたいと思います。
  それでは少しの休憩の後に「八雲猩々」をご覧いただきます。しばらくお休みください。ありがとうございました。

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