アイコン日本の音楽と舞踊の魅力を探る Vol.8

レクチュア「えんの美考」 その四

右:村尚也     左:花柳園喜輔
村尚也:さてこの後は、園喜輔氏の2曲目の踊りなんですが、「都若衆万歳」という曲でございます。これも当時、若衆といいまして、ひじょうに若い役者さんですね。女形も含め立役も含め、二枚目の若い男性の役者さんがたくさんおりまして。そうゆう人たちの名前を曲の中にうまく唄い込みまして、数えますと十数人の名前が挙がっております。霧波千寿、水木辰之助、芳澤あやめ、こういった女形や若衆方も含めてたくさんの役者さんの名前を折り込んだ曲であります。
で、若衆姿といいまして、まだ前髪立ちの元服前の男性の姿で踊るわけですが、「富貴曽我(ふうきそが)」と申しまして、ひじょうに栄えた曽我というような意味ですが、そういった歌舞伎の中の五段目に出てきた踊りでございます。曽我十郎と五郎の仇討ちの後日談というわけでして、曽我十郎の息子の資時(すけとき)という
人がおりますが、この人が、ようやく艱難辛苦の末に幕府の許しを得ましてまた武士の身分に戻った。そういった時に菩薩御前という女性が、祝福の舞を命じられて舞うというシーンに使われた曲なんですが、現在ではこの菩薩御前は、五月の前という名前で踊ることになっております。名前が変わっております。
この五月の前というのがどんな人かといいますと、曽我十郎の弟の五郎とその恋人、化粧坂少将、これも遊女ですが、その2人の間に生まれた子供だったと。この五月の前が様々な祝福の舞を踊ります。最初は「柱立て」と申しまして、一本の柱、二本の柱、というように柱のことを詠み込んでいきますが、もともと三河万歳などでは、家を建てる時には柱が必要ですね。この柱を祝福するためのお祈り事なんですね。一本の柱は「金剛界」、密教の世界ですね。二本目の柱というのは「胎蔵界」、十本目の柱は「不動明王の力柱」……というようなことを祈って、お家が立派に建つような、こういった願いを込めたものでした。それを様々に時代によって歌い替えていって、今日もまた違った形で歌っていく柱立ての部分。それから「船揃い」あるいは「船づくし」と申しまして、船のことが歌われていく部分があります。これは昔、中国の貨狄(かてき)という人が、水に浮かんだ笹の葉の中にクモが下りた。すると笹が沈まなかった。それを見て船を発明した。私たちの国家というのもそうゆうもので、人々がいてそこに天皇が乗っかる、帝が乗っかる。あるいは帝という国家があって、私たちが乗っかる。それでも沈まない。これは安全だ、祝福だ、というようなことで……。仏の世界では「弘誓(ぐせい)の船」といいまして、仏様は船によって衆生(しゅじょう)すなわち人々を救ってくれる。ノアの方舟のような感じですね。このように、船というものは非常にめでたいものである。ですから「柱立て」「船揃え」そして最後に「馬揃え」、馬の品評会のようなものですね。馬がたくさんいて、その優劣を決める。人馬が一緒になって、馬の毛並みを見たり優れた馬を見ていく。こういったことをやっていきます。
この万歳というものはですね、皆様「笑点」その他でですね、吉本興業などの漫才のもともと走りでありまして、万太夫あるいは万歳といいますが、太夫さんともうひとり才歳(さいぞう)とい者がおりまして、ボケとツッコミのようなものです。この2人によって面白おかしく、さらにめでたいことを祝う。寿いでいく。ま、こうゆうことを万歳と申しまして、先ほど申しました五月の前という、曽我五郎と化粧坂少将の娘が若衆に変身してですね、舞っていくわけですこうゆう万歳とか、日本舞踊の中には非常にめでたいものが多いわけですが、めでたいのは、めでたい時ばっかりやらなくてもいいですね。めでたくなってほしい時に前もってやるんです。これを「予祝(よしゅく)」と申します。皆様、結婚式などでスピーチをおやりになりますね。必ずいいことを言います。幸せになってほしいとか、3つ言いたいことがある。3つもあるのかと思いますけどね。とにかく、必ずいいことばっかり言います。新郎にはこうなってほしい、いい家庭をつくって早くいい子供を生んで、とか言いますよね。あれは前もって言ってあげないと。
だから逆に、いやなことは言っちゃいけないというのは、切れるとか別れるとか帰るとか言ってはいけないというのは、そういう言葉を吐くことによってそうゆう未来が実現してしまうという忌み(いみ)言葉、日本の言葉には魂があると考える「言霊(ことだま)」の思想があるために、そういった言葉をタブーにした。逆にいい言葉、美しい言葉をどんどんどんどん申し上げることによって、皆さんは必ず幸せになれると考えたわけですね。ですから万歳の人たちはいつも皆様に、予祝といって、予めこうなってほしい幸せな未来というものを言葉、さらに歌、曲、踊りにのせてお届けするわけです。
ですから今日は「都若衆万歳」を観ていただいて、ひじょうに若々しく、そして皆様方の未来のが輝かしくなること間違いないと思いますので、どうぞ楽しんでご覧になってください。
(続く)。


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