アイコン日本の音楽と舞踊の魅力を探る Vol.7

レクチュア「えんの美考」 その三
村:もうひとつ、何か円の話をしろと言われまして。僕は特に弱いんですね、お金の円らしいんですが。円はいつごろから日本で使われるようになったかというと、明治4年からですから1871年ぐらいですか。新しい法律ができまして、それまでの両などが、それが円に切り替わった。一両というのはどうゆう意味かといいますと、一両小判の重さというのは、できたころはだいたい37.5gだそうです。それがだんだん軽くなったらしいですけど、37.5gというのが一両という重さの単位だったらしいですね。一両が37.5gとすると千両箱というのは3万7500g、37.5kg。37.5kgというと、激ヤセしたころの宮沢りえの体重みたいなものですね。
でも、ドロボーさんが千両箱を担いで出てくる時代劇は「水戸黄門」とか、江戸時代ですから金の重さが軽くなっていて、だいたい半分とか4割ぐらいになっていたらしいですから。それでも18sぐらいですか、けっこう重いですね。「仮名手本忠臣蔵」の定九郎が、与市兵衛というおじいさんからですね、お軽の身請け金の半額の五十両を奪いましてね。縞の財布に手を突っ込んで、「五十両ぉ〜、」と言うシーンがありますね。ずいぶんアレ、軽そうだといつも思うんですけど、あれも1kgちょっとはあるわけですね。昔の3.75gで計算しますと2s近い。百科事典2冊ぐらいの重さですよね。そんなもの、与市兵衛みたいなおじいさんが、百科事典2冊も懐に入れてなかなか歩けなかっただろうと思いますから、金の量がだいぶ減っていたころのお話だと思います。
このように円でもですね、私が子供のころには1円がアメリカのドルに直しますと三百数十円だったのが、今では百いくらですからだいぶ変わってくるものですね、金の量も重さも変わってくるものです。
この円というのは丸ですね。禅宗のお坊さんが「一円相」といいまして、“このひとつの円の中にすべての世界は入るのだ”と、このように言ってくれています。「時雨西行」なんて踊りがありまして。その中で、江口の遊君が実は普賢菩薩だったというシーン。その時に、昔の楳茂都陸平という方が西行に扮した時に、目を開くと遊女だけれどもまなこ眼を閉じると普賢菩薩に見える、という歌詞がある。これを、どうゆうふうに振り付けようかと困ってしまった。江口のキミをやっている人は、衣装もなにも変わらないわけです。そういった心境をどのように表現しようかと。お数珠を使いました。目を開いている時は確かに遊女の格好ですから、それでいい。眼を閉じればという時にどうやったかというと、お数珠を円にしてそこから覗きました。お数珠を円にしてその円の世界を覗いてみると、遊女が仏様に見える、という振り付けをして、僕もひじょうに感銘を受けたことがございます。
円というものについて、話はたくさんあるのですが、日本人はこの円が好きですね。やはり、まろやかで円滑な生活がしたい。人格も円満でありたいと日々、考えるわけです。私たちの国旗の日の丸も、国旗として認めたくないという方もいらっしゃいますが、あれも日の丸、ひとつの円です。日の丸もよくよく考えますとあれはお日様で、♪白地に赤く、日の丸染めて……というぐらいで、太陽という意味らしいんですが、太陽だったら本当は青地に赤くだと、私は思うんですね。空が青いんですね、私にとっては。だから不思議だったんですね、どうして白地に赤く、なのか。私は子供のころに、どうしても梅干しのお弁当のイメージしかなかったんです。それを話しますとある方が、違うよ、そうじゃないよ、村君。本当は太陽というのは白いんだ。はぁ、そうか。僕たちは勝手に太陽というのは赤いもんだと思い込んでいたのが、よくよく見てごらん。青い空に浮かんでいる太陽は、白く丸い円なんだよ。あー、なるほど、そうゆう表現の仕方もあるかと思いました。
ま、ともかく日本人は、白地に赤い丸の国旗を選んでおります。私たちが円を選ぶというのは、円が輪という、リングですね、和に通じる。そして私たちは、よく日本の心を「和の心」と申しますね。不思議です。洋食、和食と食べ物でいいますね。洋食はヨーロッパのヨーかもしれないし、海の洋なのでしょうが、なぜ日本食といわずに和食というのでしょうか。どこから、あの和という言葉がきたんでしょうか。
例の「魏志倭人伝」。にんべんに何々委員の委と書きまして「倭人」、日本人のことを倭人といいまして、昔朝廷がありました奈良の方には「やまと倭」という国がありまして、この国がさらに大きく発展しますと、大きな倭と書いて「やまと」と読ませるようになりました。
「やまと」というのはどうゆう意味かというと、山の麓とか山の扉とか、こういった意味です。日本人というのは、字に対する感覚がひじょうに鋭いですね。同じ音を持っている言葉には、同じ魂を持っているのだと考えます。『立ち別れ 因幡の山の 峰におる 松としきかば 今帰りこむ』。これは、百人一首にあります在原行平の歌。今あなたと別れていきますが、因幡の国の山の峰に生えている松を見たら、あなたが待っていると思う……。これはダジャレですね。在原行平の歌はおじんギャグだったんですね、あれは。ですからお父様方は、自分たちのダジャレをおじんギャグだと言われたら、これは伝統的な洒落であると必ずお答えください。
このように、昔から同じ音を持った言葉というものは、同じ魂を宿していると考えたものです。ですから、着物の褄といいますね。この(足)爪の先もつま先。爪楊枝といいますね。全部、はじっこのことを「ツマ」といいます。刺し身のツマはなぜツマかというと、はじっこにあるからですね。だから、ご結婚なさった奥様方も妻という……(笑)。
はじっこにいなきゃいけない、本当は。でも昔、日本舞踊の世界の方の「黒髪」という曲を聴きますと、『袖をかたくしてツマじゃと言うを……』という時は「夫」という字を書く。
これは平安時代に光源氏などが通い婚ですね、男が通った時代がありましたね。そうしますと、男の方が女性の家に入っていくわけです。そうしますとその女性の家の主家の隣りにですね、ツマヤという新しい夫婦のための家を建てるわけです、女性のお父さんが。それで、ツマヤに住んでいる男のことを夫と書いて、ツマヤに住んでいるからツマと呼んだわけです。これが平安時代から武士の世界になって逆になりまして、男の方が家で待っていて女性を迎え入れるようになり、女性をツマと呼ぶように切り替わった。ツマらない話ですが。

園喜輔の「三曲糸の調」
こうゆう万歳とか、日本舞踊の中には非常にめでたいものが多いわけですが、めでたいのは、めでたい時ばっかりやらなくてもいいですね。めでたくなってほしい時に前もってやるんです。これを「予祝(よしゅく)」と申します。皆様、結婚式などでスピーチをおやりになりますね。必ずいいことを言います。幸せになってほしいとか、3つ言いたいことがある。3つもあるのかと思いますけどね。とにかく、必ずいいことばっかり言います。新郎にはこうなってほしい、いい家庭をつくって早くいい子供を生んで、とか言いますよね。あれは前もって言ってあげないと。
だから逆に、いやなことは言っちゃいけないというのは、切れるとか別れるとか帰るとか言ってはいけないというのは、そういう言葉を吐くことによってそうゆう未来が実現してしまうという忌み(いみ)言葉、日本の言葉には魂があると考える「言霊(ことだま)」の思想があるために、そういった言葉をタブーにした。逆にいい言葉、美しい言葉をどんどんどんどん申し上げることによって、皆さんは必ず幸せになれると考えたわけですね。ですから万歳の人たちはいつも皆様に、予祝といって、予めこうなってほしい幸せな未来というものを言葉、さらに歌、曲、踊りにのせてお届けするわけです。

ですから今日は「都若衆万歳」を観ていただいて、ひじょうに若々しく、そして皆様方の未来のが輝かしくなること間違いないと思いますので、どうぞ楽しんでご覧になってください。
(続く)
村:このように言葉というものは、どんどんどんどんくっついていきますね。そうゆう意味で園喜輔氏は、園喜輔の園から、いろいろな「えん」を引っ張ってきたかったのだと思います。そして最後に、円というのはお金のことだとおっしゃっていましたが、私は何の打ち合わせもしていなかったのですが、なるほどな、これで結んだのかと思いましたが、そうゆうわけで、日本とは実は円、和の国なんですね。
この和する、聖徳太子の“和を以って尊しと成す”。この和と先ほど申しました倭は同じ音ですから、これを引っ張ってきて「大きな和する」。これで「やまと」と読ませる。ここで日本ができてくる。そこで私たちは、和の心、和食という言い方がここで誕生してくるわけです。
ですから日本という言葉のほかに、和の国であります。それは仲良くするという意味と同時に、私たちはいつも輪、リングつくっていく。巡っていくという思想を持っています。お月様は最初欠けて、朔月から始まってだんだん満月に至る。そしてまた欠けていって、最後にまた新月になって暗くなる。しかし、また生まれている。そういった、いつも輪で考える。私たちも生まれて青年になり、そしてだんだん老いて死ぬ。しかし、必ずまた生れ変わる「輪廻転生」。このように私たちは、いつも輪として考えたい。私たちの中にはこういった思想がありますから、いつも円を描いていることになりますね。ですから今日、「えん」というテーマになさったということは、園喜輔氏があらゆるものを取り込んで、芸をふくらませていこうという現れだと思えてならないわけです。


「物狂い考」その1 「物狂い考」その2
「物狂い考」その3 「物狂い考」その4
「道行きの美」はじめに 「道行き考」その1 「あな妖し考」その1 「あな妖し考」その2
「いきの美」その1 「いきの美」その2 「いきの美」その3 「えんの美考」その1
「えんの美考」その2